You don't know? “鈍脳”

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抗ヒスタミン薬による鈍脳とは
監修:東北大学・大学院医学系研究科・機能薬理学分野 教授:谷内一彦

止まらないくしゃみや鼻水、鼻づまり…。つらいアレルギー性鼻炎の症状に、毎年花粉シーズンは鼻炎薬が手放せないという方も多いのではないでしょうか。
一般的な鼻炎薬に含まれる抗ヒスタミン薬は、アレルギー性鼻炎の症状に効果を発揮しますが、中には集中力や判断力が低下した“鈍脳”状態を招くものがあります。この“鈍脳”の仕組みや花粉症薬との上手な付き合い方について、東北大学の谷内一彦教授にお話を伺いました。

抗ヒスタミン薬による中枢抑制作用=”鈍脳”

抗ヒスタミン薬のはたらき

抗ヒスタミン薬のはたらき

花粉などアレルギーの原因物質(抗原)が鼻の粘膜に付着すると、抗原抗体反応によりアレルギー症状を引き起こすヒスタミンなどのアレルギー誘発物質が放出されますが、このとき、ヒスタミンは鼻の粘膜にある「H1受容体」という部分と結合し、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状が起こります。
このヒスタミンとH1受容体は、鍵と鍵穴のような関係になっていて、ヒスタミンという「鍵」がH1受容体という「鍵穴」にはまることで、アレルギー症状が引き起こされるのです。抗ヒスタミン薬は、この「鍵穴」を先にふさいで、放出されたヒスタミンと結合できなくすることで、アレルギー性鼻炎症状が出るのを抑えます。

”鈍脳”とは?

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鈍脳とは、抗ヒスタミン薬の服用によって起こる、集中力・判断力・作業能率が低下した状態をいいます。また、この鈍脳は眠気のように自分で気づいたり感じたりできていない患者さんも少なくありません。

近年、医療用では、鈍脳を起こしにくいタイプの薬が数多く処方されていますが、市販薬(OTC医薬品)では、まだまだ鈍脳を起こしやすいタイプの薬が数多く使われているのが実態です。

鈍脳になると日常生活のさまざまな局面、例えば自動車の運転や緻密な機械操作などで危険に遭遇する可能性も高くなるので、抗ヒスタミン薬の服用には細心の注意が必要となります。
ところが、その危険性についてはまだあまりよく知られていないのが現状です。

”鈍脳”の原因

抗ヒスタミン薬は、鼻の粘膜にあるH1受容体をブロックすることで、くしゃみや鼻水といったアレルギー性鼻炎の症状を緩和しますが、抗ヒスタミン薬が脳の中に入り込んでしまうと、脳内のH1受容体もブロックしてしまいます。

しかし、脳内に存在するヒスタミンは、集中力や判断力、作業能率、覚醒の維持という重要な役割を担っていますが、アレルギー性鼻炎症状とは全く無関係であることがわかっています。脳内に抗ヒスタミン薬が入ってしまうと、こうした脳内のヒスタミンのはたらきが妨げられてしまい、自分でも気づかない集中力や判断力、作業能率が低下するなどして、鈍脳が起こります。

抗ヒスタミン薬の脳内での作用

抗ヒスタミン薬の脳内での作用

日常生活に潜む”鈍脳”のリスク

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自動車の運転や緻密な機械操作でのリスク

自動車の運転や機械操作などをおこなう際に抗ヒスタミン薬を服用すると、集中力が低下した鈍脳の状態が引き起こされる可能性もあります。非常に危険で、大きな事故につながる恐れがあります。
鈍脳を引き起こす抗ヒスタミン薬の中には、一回分の服用でウィスキーシングルを3杯分(約90mL)飲んだ時とほぼ同程度の鈍脳状態になったり、服用タイミングによっては翌朝まで二日酔いに似た脳機能の低下が見られたりするものもあります。
多くの抗ヒスタミン薬は、使用上の注意において、乗物または機械類の運転操作をしないこととされておりますので、服用後はくれぐれもそのような行為は控えてください。

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学校の試験成績への影響

英国の10代の男女学生1,834人を対象に、アレルギー性鼻炎や鼻炎薬がテストの成績に与える影響について調査した報告によると、テストの成績が低下する傾向は、テスト当日にアレルギー性鼻炎の症状がある学生(1,001人)は、症状のない学生よりも40%高く、またテスト当日に鎮静作用のある抗ヒスタミン薬を服用した学生(84人)は70%高かったと報告しています。
鈍脳を引き起こす抗ヒスタミン薬の服用は、大切な試験の成績にも影響が出る可能性があります。

”鈍脳”を起こしにくい抗ヒスタミン薬とは

抗ヒスタミン薬の特性により、脳内への入りやすさに差があります

※脳内のH1受容体のブロックの割合が高いと、覚醒や興奮などの働きが抑えられ、眠気や集中力・判断低下が見られます。

抗ヒスタミンの脳内への入りやすさには差があります。抗ヒスタミン薬が脳内に入り、そこでH1受容体と結合すると、脳内のヒスタミンの働き(覚醒や興奮など)が妨げられ、眠気、集中力や判断力の低下 いわゆる”鈍脳”を引き起こすことがあります。抗ヒスタミン薬には第1世代と第2世代という開発時期の違いによる分類があります。第1世代の抗ヒスタミン薬に比べて、より鈍脳を起こしにくいように開発されたのが第2世代の抗ヒスタミン薬です。

しかし、第2世代の抗ヒスタミン薬の中でも眠気や鈍脳の起こりやすさには差があります。これは抗ヒスタミン薬の特性によって脳内への入りやすさに差があり、脳内のH1受容体をブロックする程度に違いが発生するためです。そのため、抗ヒスタミン薬は世代よりも服薬した後の鎮静性の有無(鈍脳の引き起こしやすさ)による分類についても知ることが重要です。服用によって脳内のH1受容体が50%以上ブロックされるものは鎮静性タイプ、20%~50%のものは軽度鎮静性タイプ、20%以下のものは非鎮静性タイプと、主に3つのタイプにそれぞれ分けられます。

先に述べたとおり、本来ヒスタミンは脳内で覚醒や興奮などをもたらすはたらきを持っていますが、「鎮静性」(とくに鈍脳を起こしやすい)タイプ、「軽度鎮静性」タイプの抗ヒスタミン薬は、脳内でヒスタミンのはたらきを抑え、眠気や集中力、判断力が低下した鈍脳を引き起こします。一方で、エピナスチン塩酸塩やフェキソフェナジン塩酸塩に代表される「非鎮静性」(鈍脳を引き起こしにくい)タイプの抗ヒスタミン薬は脳に入りにくいため、服用しても脳内で覚醒の役割を果たすヒスタミンとH1受容体の結合を妨げず、鼻の粘膜などアレルギー反応を起こしている部位では、ヒスタミンとH1受容体の結合を阻害するので、鈍脳を引き起こさずに抗アレルギー効果が期待できるため、現在のアレルギー性鼻炎治療の主力となっています。

出典:
・谷内一彦 薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療 耳鼻咽喉科学会誌 123:196-204, 2020
・谷内一彦 小児における抗ヒスタミン薬の選択について考える 小児耳 2018; 39 (3): 275–282
・谷内一彦、谷内亜衣、中村正帆、吉川雄朗 臨床薬理学からみた非鎮静性抗ヒスタミン薬 アレルギーの臨床 2017: 37(1), 35-39

部位による、抗ヒスタミン薬の作用の違い

部位による、抗ヒスタミン薬の作用の違い

抗ヒスタミン薬に対する関心の低さと誤解

 

「効き目が強いほど眠い」など鼻炎薬に対する誤解も


過去一年間に花粉症を含むアレルギー性鼻炎の症状があり、市販の抗ヒスタミン薬を使用した男女30-49歳を対象としたインタビュー調査では、過去の経験やイメージから鼻炎薬は眠くなるものと捉えている人もおり、効き目が強い薬はより眠くなりそうとの意見も見られました。
また、薬に対する情報収集意欲が低いため鼻炎薬に対する知識は少なく、抗ヒスタミン薬の分類を理解していた人はこのインタビュー調査ではおらず、効き目に大きな不満がないため毎年同じ薬を継続的に使用する傾向が強く見られました。

 

インタビュイーのイメージ図

過去の経験から、「強い鼻炎薬」は飲んだ後、眠くなり、だるさを感じるものが自分のイメージなので、鼻炎薬を飲んで眠くなり、作業ができなくならないよう、強い薬の服用を避けている。 (38歳)

インタビュイーのイメージ図

薬を飲むと、眠くなっちゃうかなと思い、飲まずに我慢してしまうときもある。眠気というのはイメージで、細かい説明などはあまり読まないが、飲んだら眠くなるかなと勝手に思っているところはある。 (47歳)

2021年7月 エスエス製薬調べ
※過去1年間に花粉症を含むアレルギー性鼻炎の症状があり、市販の鼻炎薬を購入した30-49歳男女9名

  • 効き目が強い薬ほど眠くなるというのは、抗ヒスタミン薬の作用の誤解です。
  • 「眠気」は、抗ヒスタミン薬の中枢抑制作用により引き起こされますが、アレルギーの症状を抑制するときは身体の末梢部分に作用しており、両者には相関性は全くありません。
  • このような点から、花粉症対策への効果とQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の観点から、まずは「鈍脳」を起こしにくいタイプの抗ヒスタミン薬を検討するべきだといえるでしょう。